今回の旅でもっとも過酷だった1月2日。
阿蘇の大地で閑かな朝を迎えました。
峠を越えた瞬間に現れる雄大な景色は、いつ見ても心が躍ります。

まずは阿蘇神社へ。

大分方面にクルマを走らせていると、磨崖仏の看板を見つけたので普光寺に寄り道。
大分は磨崖仏がたくさんあることで有名ですが、ここの不動明王像はその中でも最大のもの。浮き彫りタイプでは日本一の大きさだそうです。
磨崖仏が彫られた岩壁の横は大きくえぐられ、そこにはたくさんの仏像が安置されてしました。そこには何故か譜面台が無造作に置かれていて、なんだか仏像たちが合唱するステージのような雰囲気。

ステージ脇から不動明王を見ると、こんな感じ。
こちらはなんだか踊ってるみたい。

大分市街に近づいたところで、西寒多神社へ。
たくさんの人が初詣に訪れていて、長い行列ができていました。整理誘導する人がいれば、もう少し行列が短くなるんじゃないかな。

拝殿をぐるりと回ると、奥宮へ誘う看板がありました。
さすがにすぐ奥に見えるお社が奥宮じゃないだろう、と思いながら足を踏み入れ、そのまま歩き始めます。
・・・これが大失敗の始まり。
看板に「参拝道」ではなく「”登”拝道」と書いてあることに気づいたのは、ずいぶん後になってからです。

多少の上り坂は想定内。まだまだ元気だったのでぐんぐん歩いて行きます。
さっきまで並んでいた行列で漏れ聞いた周りの人たちの会話「神社の裏側にパワースポットがあるらしい」「1.5キロくらい歩くらしい」ってのをなんとなく信じてて、そこまで行けたらいいな、くらいに考えてたんですよね。
・・・んで、20分くらい歩いてもパワースポットはおろか、それらしき案内板すら出現しません。もちろん人影も・・・。

おかしいな、と思いつつ、さらに10分歩いてみることにしたんですが、さらに体力を消耗しただけで状況に変化なし。倒木の下をくぐったり乗り越えたりしながら、それでも頑張って進んでいきます。
あと5分で着くかも知れない・・・そんな期待と不安で、引き返すタイミングを逸してしまいました。

足を踏み外して滑落してしまったら・・・なんて不吉な考えが頭をよぎるくらい、すでに両足はヘロヘロ。道ばたで拾った枯れ竹をトレッキングポールの代わりに使ってたんですが、ふいに体重をかけた時に呆気なくパキッと折れてしまいました。
あぁもうイヤ。

やっとこさ現れた案内板には「本宮山」。
いや、オイラが目指しているのは神社の奥宮なんですが・・・。
え?いや、まさか・・・そんな・・・・・・。

すでに1時間以上歩いています。っていうか、山を登っています。
水を飲みたい。汗を拭きたい。足が痛い。
ショルダーバッグには、こんな時にはまるで役に立たない御朱印帳が入っているだけ。いつもならタオルくらい入っているのに・・・。
まさか登山するなんて想像すらしてなかったもんな。
そんな時、突然目の前にベンチが出現しました。ここにベンチがあるのは、大分市街が一望できるからなんですね。
ベンチに座って景色を眺めると、現在自分が置かれている状況を再確認できます。もうね、ただのアホかと。

一息つきながら、ようやく奥宮について調べてみたんですが・・・やっぱり、本宮山の頂上付近にあるらしいです。あぁもう、このことを知ってたら、行ってみようなんて絶対思わなかったよ。
戻るか進むかの脳内会議の結果、「さすがにここまで来て戻るなんてありえねぇ」との意見多数。映画なら間違いなく次のシーンで遭難しちゃうパターンです。
もうあと少し・・・のはず。
そう信じて(いや願って)進んでいたら、何度目かの分かれ道で案内板に変化が・・・。
当初の目的地である奥宮こと「本宮社」への道が下り坂だったので、まずは「頂上」を目指します。

ここまでの道のりで数組の登山者とすれ違ったんですが、「こんにちは」と挨拶を交わしただけでした。「あとどれくらいですか?」と尋ねて、「まだまだ先ですよ」と答えられるのが怖かったから。
ここにきてついに、すれ違ったご夫婦に尋ねてみたところ、笑顔で「すぐそこですよ」と言ってくださったのは本当に嬉しかった。
その言葉どおり、ついに頂上が見えてきました。最後の力を振り絞って登ります。

本宮山の山頂に到達。標高は607.5メートルだそうな。
西寒多神社からだと、どれくらい登ったことになるのかな。
どうせ植林に覆われて景観なんか楽しめないだろうと思っていましたが、展望台が整備されていて木々の間から大分市街が見えました。
ただ、期待していた自販機はなく、防火用のドラム缶に水が貯まっていただけ。『スターウォーズ・フォースの覚醒』で、砂漠を彷徨ったフィンが清潔でなさそうな水をがぶ飲みするシーンがありましたが、さすがにそのような真似はできません(水の色が全然違うし)。

展望台の下にノートが置かれていて、登山者が名前や登山ルート、感想などを書き込めるようになっていたのでオイラも書いてみたんですが、手がガクガクと震えてしまい文字はぐちゃぐちゃ。
少し休んでからさっき登ってきたルートを戻り、分かれ道から本宮社へ。
想像してたよりも広い敷地で立派な鳥居がありましたが、ここにも自販機はなく手水も飲める状態ではありませんでした。最後の望みが絶たれてガッカリ。

こぢんまりとした奥宮の拝殿。麓の神社を出発してからここまで来るのに、ちょうど2時間くらいかな。
こんなに苦労することになるとは思ってなかったなぁ。
先月訪れた石上布都魂神社の奥宮のように、ちょっとゼェゼェハァハァするくらいだと高を括っていたんですがね。3日前の高良大社であっさり引き返せたのは、行きが下り(帰りが登り)だったから。
今回は完全に判断ミスでした。

目的を達したものの、達成感よりも悲壮感と疲労感を漂わせながら下山を開始。あぁ待ちに待った下山ですよ。
さっき休憩をとったベンチまで戻って再び休憩。先が見えない往路と戻るだけの復路では全然状況が違いますな。
ちなみにベンチと一緒に写っているのは2代目のトレッキングポール、オイラは「ガンダルフの杖」と呼んでいました。こいつは意外に丈夫で、出発点の登拝道入口までしっかりオイラを支えてくれました。

ただね、もうね、下りは体力的には楽なんだけど、とにかく足が痛い。
毎度のことだけど、トレッキングシューズではなく普段履いているウォーキングシューズですからね。靴紐をきつく結び直してもまったく効果ありません。
もうここから先は、ずっと「痛い痛い痛い」と叫びながら歩いていました。
なんとか神社まで戻ると、まだまだ初詣の行列が続いています。その傍らを抜けて一目散に向かったのはもちろん自販機。
ペットボトルを2本イッキに飲み干して自販機の傍らに座り込んだ汗だくのオイラを、初詣客が奇異の目で見てたのが忘れられません。
それからクルマまで戻って着替えると、そのまま倒れ込んでしまいました。
その後、食事ができるまで回復したのは午後10時過ぎ。前回訪れた時は工事中だった大分駅前が綺麗に整備されてたので、駅前の商店街へ。
ラーメン屋で食べた混ぜ麺が美味しかった。

別府湾で夜の海を眺めながら、しばらく怒濤の一日を振り返りました。別府市街の夜景よりも明るい船があったのでカメラを向けてみたり。

とにかくなにより、この一日が無事に終わって良かった。
まぁ終わってみれば苦くても良い思い出ですね。二度と味わいたくないですが・・・。